音素
「発音記号」は正確には「音素記号」といいます。音素は頭の中で「同じ」と捉える心理的な音声のことです。音素は / / で挟んで表します。日本語では母音の /a/, /i/, /u/, /e/, /o/ と子音の /k/, /g/, /s/, /z/, /t/, /d/, /n/, /h/, /b/…などのことです。
このサイトを作った主な目的は耳から聞いた英語を理解すること、自分の口から発した英語が相手に伝わることなのですが、学問的に極めるというよりは、あわよくばネイティブスピーカーのようにカッコよく発音する
という軟弱な理由です。なので、母音とは何かとか子音とは何かとか難しいことは省略します。
ひとつだけ、「音素記号は心理的な音声を表したもの」ということを覚えておいてください。音声は空気の振動です。「こんにちは」は男性が話すときと女性が話すときは明らかに振動の波形が違います。ですが、その空気の振動が耳の鼓膜が振るわせて神経を通して脳に送られると、脳はどちらも同じ「こんにちは」と捉えるということです。もっと言うと、これまでの人生であなたの口が発した「こんにちは」のどの一つをとってもその空気の振動の波形に全く同じものはありませんが、あなたの脳は常に「こんにちは」と発音するように筋肉に命令していましたし、聞き手もほとんどの場合は「こんにちは」と捉えていたことでしょう。
なぜ、そんなことを知っておく必要があるか:
① 心理的には「同じ」と思って発していても、物理的には異なる音になることがあります。逆に、物理的には異なる音であっても心理的には「同じ」と分類される音があります。
・ 「三枚」 (「さんまい」) の「ん」は唇を閉じます。
・ 「三代」 (「さんだい」) の「ん」は舌を歯茎にくっつけます。
・ 「三回」(「さんかい」) の「ん」は唇も閉じませんし舌を歯茎につけることもありません。口の奥のどこかで口に向かって流れてくる空気を止めて、鼻から空気を流します。
音素というのは「心理的」な音声で頭の中では同じだと思っていても、物理的に異なる音声として発音されることがあります。逆のことも言えて、物理的には異なる音声であっても心理的には同じと捉えることがあります。
② 言語によって音素のセットが異なります。日本語の音素のセットは英語の音素のセットと異なります。同じ物理的な空気の振動の波であってもどの音素に分類するかは日本語と英語では異なります。
「三枚」も「三代」も「三回」も日本語では「ん」は、言わば、 /ん/ で心理的には同じ音であると捉えます。
一方で英語の「音素」のセットでは「三枚」の「ん」は /m/ ですし「三代」の「ん」は /n/ ですし「三回」の「ん」は /ŋ/ です。3つの「ん」はそれぞれ心理的に異なる音として分類されることでしょう。
日本語では同じと捉えているいろいろな音を英語では使い分けなければならないこともあれば、逆に日本語では別のものとして区別している音が英語では同じと捉えられる音のバリエーションであることもあります。
子音
子音は発音の方法、発音する場所、そして有声音か無声音で分類します。英語の音素の分類は学者さんごとに微妙に異なりますが、このサイトでは説明に次の28種類 (と [ʔ]) を使うことにします。
普通に思い浮かぶ「あかさたな…」に濁音、半濁音 (ぱ行)、拗音 (小さな「ゃゅょ」をくわえて表す音) を加えると、日本語と比べてもそれほどたくさんあるわけではありません。
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両唇 |
唇歯 |
歯 |
歯茎 |
歯茎から硬口蓋 |
歯茎後部 |
硬口蓋 |
軟口蓋 |
声門 |
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破裂音 |
無声 |
/p/ |
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/t/ |
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/k/ |
([ʔ]) |
有声 |
/b/ |
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/d/ |
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/g/ |
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摩擦音 |
無声 |
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/f/ |
/θ/ |
/s/ |
/ʃ/ |
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/h/ |
有声 |
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/v/ |
/ð/ |
/z/ |
/ʒ/ |
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破擦音 |
無声 |
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/ts/ |
/tʃ/ |
/tr/ |
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有声 |
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/dz/ |
/dʒ/ |
/dr/ |
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鼻音 |
有声 |
/m/ |
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/n/ |
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/ŋ/ |
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側音 |
有声 |
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/l/ |
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移行音 |
有声 |
/w/ |
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/r/ |
/j/ |
(/w/) |
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母音
母音は舌の位置が上の方か舌の方か、舌の最も高い位置は前の方か後ろの方かで分類をします。
日本語の母音は「あいうえお」の5つですが、英語の母音はたくさんあります。たくさんあるのでそれをいちいち覚えるのは大変です。まず、下の図の12個を使い分けることができるようになりましょう。
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← (前) |
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(後) → |
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↑ (上) |
/i/ |
/ə/ /ɚ/ |
/u/ |
/ʊ/ |
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/ɪ/ |
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/o/ |
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(下) ↓ |
/e/ |
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/ɔ/ |
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/æ/ |
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/ɑ/ |
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/a/ |
英語の母音がたくさんあるのは二重母音、三重母音というものがあるからです。日本語では「あい」は2つの母音の組み合わせですが、英語では I (/aɪ/) は 1 つの音と捉えられます。英語の /aɪ/ は /a/ から /ɪ/ に向かって舌が移動しますが、完全に /ɪ/ の位置まで動くわけではありません。その点で「1 つの音」なのですが、日本人が慣れている「2つの母音の組み合わせ」という捉え方をしたところで私の経験では大きな問題はありません。まず、基本の12個の母音を使い分けることを優先しましょう。
/ə/ は「あいまい母音」と呼ばれる音で、英語では shuwa (シュワー) といいます。よく「弱い『あ』」と表現しますが、日本語の「う」はきっと /ə/ に一番近い音です。 舌も唇も頬も脱力して声を出したのが /ə/ です。強勢の無い母音は全て /ə/ で構いません。「あ」でも「い」でも「う」でも「え」でも「お」でもなんでもいいんです。ダラッと発音すれば、前の音からあまり動かなくて良い場所、次の音を発音するのにあまり動かなくて良い場所、どこで発音しても /ə/ です。非常に守備範囲の広い音です。
cup とか sun とか /ʌ/ という音素記号で表している辞書がありますが、これも /ə/ と一緒で構いません。基本の母音は12個も使い分ければたくさんでしょう。
/a/ は二重母音、三重母音の先頭でしか使いません。12個の母音と言っても、/ə/ とこの /a/ を除いた10を操るだけでそれなりに外人っぽい英語を話すことができるようになります。